オペレーション

【人気レストランのプレイリスト】Vol.1:東京・広尾『オード(Ode)』生井祐介シェフ

レストランで流れている「音楽」にはどんな役割があるのでしょうか。
そして、音楽やカルチャー的なバックボーンが、料理の創作に影響を与えることはあるのでしょうか。
そんな素朴な疑問を追求してみようと、

①シェフが選んだアルバムベスト3
②シェフの音楽的なルーツと料理の関係を紐解くロングインタビュー
③ある日のプレイリスト

という3方向から、音楽と料理、レストランとカルチャーというテーマを深堀ってみたいということで、単なるBGMにとどまらず、音楽が店のコンセプトの一部になっている飲食店を取材していこうと思っています。

記念すべき第一回に登場するのは、東京・広尾の『Ode(オード)』の生井祐介シェフ。
料理人になる前はミュージシャンを目指していたという生井シェフの音楽への思いを語っていただきました。

旋律とリズムが流れる料理と評される『Ode』

フレンチをベースにしたガストロノミックな料理で、「ミシュランガイド東京」での1つ星、「ゴ・エ・ミヨ」での「明日のグランシェフ賞」獲得など抜群の評価を誇る広尾のコンテンポラリーフレンチ『オード』。

インテリアだけではなくシグネチャーディッシュからユニフォーム、カトラリーなどまでグレーに統一されるなどコンセプチュアルなスタイルでも好評を呼んでいます。

とはいえ、クールなだけでなく、ところどころに顔を出す茶目っ気も魅力。

例えば、スペシャリテよりも有名になってしまったアミューズの「ドラ○ンボール」 。

オマール海老のビスクに、コアントローの衣をつけた料理を試作していたら、なんとなく見たことあるぞとなって生まれたんだとか。じゃあ、星つけて、座布団敷いちゃえ!と。

というように、本格派でありながらポップ、古典的な基本を押さえつつ現代的でもある料理は、ラテン語で「叙事詩」を意味する「オード」という店名もあって、旋律やリズムを感じると評されることの多いこの『Ode』

店を率いる生井祐介シェフの音楽的なバックボーンはいかに?

ぜひ、最後までお楽しみください。

ある日の『Ode』プレイリスト

9月中旬に『Ode』で流れているリストの一部を特別に教えてもらいました。

実際にお店にいる気分で、楽しんでください!

 

『Ode』生井祐介シェフが選ぶアルバムBest3

取材日にお店に伺うと、テーブルには、シェフが持参した資料が山積み。

そこには、ロバート・ジョンソン『コンプリートレコーディングス』やライトニン・ホプキンスの『モジョ・ハンド』とブルーズの名盤、ローファイかつファッショナブルなトミー・ゲレロ『ソウル・フード・タケリア』などのCD。

そして、ニルヴァーナのカート・コバーンの写真集、藤代冥砂氏が90年代の東京のナイトライフを切り取った写真集、カルチャー雑誌『cut』など。

本題のCDに関しては、ジャケットやケースの磨り減り具合から、長年聴きこまれたものばかりだとわかります。

さて、生井シェフは、それらの中からMy Best 3としてどんなアルバムを選んだのでしょうか?

ザ・クラッシュ『ロンドン・コーリング』
Clash-LondonCalling
生井シェフ・コメント
「パンクムーブメントのなかで好きだったのが、クラッシュです。このアルバムからスカ、レゲエなどいろんな音楽を取り入れるようになってますね。後に流行るレッチリなどのミクスチャーとはまた違った、この時代ならではの新しいミクスチャーロック。今でもまだ好きで聴いてしまいます」
項目名 ザ・クラッシュ(THE CLASH)
項目名 『ロンドン・コーリング』
項目名 史上最高のロック・アルバムの一枚と言われる、ザ・クラッシュの通算3作目1979年発表の名作。
ロカビリーやR&B、スカ、レゲエといった幅広い音楽性を提示することで全英9位/全米27位を記録。パンクを超越した存在を勝ち得ることとなった画期的な作品となった。
エルヴィス・プレスリーのデビュー作をモチーフにしたジャケットや鬼才ガイ・スティーヴンスのプロデュースによる全てにおいてパーフェクトな名盤。米ローリングストーン誌は<80年代最重要アルバム>と評した。
項目名 1979年発売
レーベル: Sony Music Direct
https://www.sonymusic.co.jp/artist/TheClash/

 

アレサ・フランクリン『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』
アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト
生井シェフ・コメント
「アレサ・フランクリンのライブの名盤。アレサ・フランクリンは『うますぎて苦手』という人もいますが、一度ライブ盤を聴いてほしい。獣みたいに吠えまくるアレサの歌は鳥肌ものです」
アーティスト アレサ・フランクリン
アルバム名 『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』
解説 1971年3月5日から3夜連続で行われたロックの聖地「フィルモア・ウェスト」でのライブ。アレサはキング・カーティス、ビリー・プレストン、コーネル・デュプリーらを従えノリノリのステージを披露、満杯の客を魅了した。この模様は3夜とも録音され、最終日3月7日のレイ・チャールズの飛び入りパフォーマンスも記録された。
1971年6月発売されチャート7位まで上昇、アレサにとって5枚目のゴールド・アルバムとなった。以後歴史的名盤として後世に語り継がれている。
データ 1971年発売
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
https://www.sonymusic.co.jp/artist/arethafranklin/

 

The J.B.’s『フード・フォー・ソート』
フード・フォー・ソート
生井シェフ・コメント

「ジェームズ・ブラウン(James Brown)のバックをやっていたJB’sのファーストアルバム。『ずっと続くリズム萌え』です。阿波踊りとかと同じで、聴いているとトランス状態に入れるんです。ループマシンのない時代に、自力で作られたループとアイデアに感心させられます」

アーティスト The J.B.’s
アルバム名 フード・フォー・ソート
解説 J.B.ファンク帝国の屋台骨を支えたスーパー・バック・バンド、JBズの記念すべきデビュー・アルバム!デビュー作にしてファンクの大名盤であり、サンプリンク・ネタの宝庫として知られる。フレッド・ウェズリー(tb)、ブーツィ(b)&フェルプス(g)のコリンズ兄弟、メイシオ・パーカー(a.sax)など名手たちが参加。クールでタフなファンク・インストを全編で展開。
データ 1972年発売
レーベル: ポリドール
https://www.universal-music.co.jp/p/uicy-76593/

 

続くインタビューの後半でも語られていますが、生井シェフのセレクトのポイントは「ライブ感」と「ミクスチャー感」というキーワードに集約されるでしょう。

そのスタンスは、やはり彼の料理観とも同期しているように考えられるような気もします。インタビューで解き明かしてみましょう!

生井シェフの音楽的ルーツを紐解くロングインタビュー

「ブラックミュージックを筆頭に、どんな音楽でも生々しい感じに惹かれます」

●そもそもの音楽との出会いは、どういったものだったのでしょうか?

生井「一番強烈に残っているのは、中学3年のときに、ローリング・ストーンズの東京ドーム公演を観たことですね。チケットが取れてしまったんですが、受験生だったので親とすったもんだしながら、なんとか観に行って。相当な衝撃でしたね」

●それからは音楽にどっぷり浸かっていくわけですね。

生井「ストーンズを掘り下げていったら、彼らがルーツミュージックを通ってることがわかって、それらを聴いてみようと思いました。ブラックミュージックのなかでも、主にブルース。ハウリン・ウルフやロバート・ジョンソンなんかのゴテゴテのシカゴブルースをわからないなりに掘っていました。詳しい知り合いに聞いたりしながら、深みにはまっていく感じですね」

●ブラックミュージックのどこに惹かれましたか?

生井「もともと幅広いジャンルを聴くのですが、どんな音楽でも『フェイクじゃない、生々しい感じ』に惹かれます。ブルースにはその感覚が色濃くあります。音程があってなくても構わず声を張り上げているあの感じですね」

●なるほど。

生井「高校を卒業した後、法律の専門学校に行ったんですが、国家試験には落ちてしまったので、一般の企業に就職したんです。だけど、その頃はバンドブームの名残があったので、学生時代の友達などはバンドをやっていて……僕も会社を辞めてまた音楽をやるようになりました。友達がいたこともあり、音楽を志している人しか住んでいない“トキワ荘”みたいなアパートに転がり込んで毎日のように演奏してたり、津田沼駅前でブルースを歌っている人を見つけて、仲良くなったりもして、どんどん輪が広がっていきました」

●一時期、音楽の道を志していたとも聞きます。

生井「とはいえ、本気でプロを目指していたか?と言われると、そこまでのものではなかったんですけどね」

「音楽でも料理でも、いったん基本を知る、それから広げていくというスタンスは同じかもしれません」

●ミュージシャンとしてやっていこうとは思っていなかったのでしょうか?

生井「その頃に、RCサクセションの存在を知ったり、イカ天ブームなどがあったりで、一気に自分の中に音楽が入ってきた時期ではありました。音楽にどんどんのめり込んでいくんですが、音楽で将来が見えたわけではないです。ブラックミュージックをやり続けても黒人にはなれないし、プロを目指してオリジナル曲を作るような意識もありませんでしたしね」

●そのあたり、生井さんの料理への考え方ともシンクロしているようにも思えます。フランス料理の基本をきちんと押さえているけれども、やっぱ生粋のフランス人ではない、じゃあ、どうするか?みたいな。

生井「どうなんでしょうか。確かに料理に関しても、まず古典書を買ったりするタイプではあります。基本を知ることが大事だと思っているというか。ただ、現在も、そのままのことをやっているわけではないですね」

●音楽に関して、興味の対象が広がっていったのは、いつくらいなのでしょうか?

生井「30歳くらいの頃に、軽井沢で働き始めたころからですかね。もっと広く、いろんなものを受け入れられるようになっていきましたね。有線で流れている音楽でも、バイトの女子大生が聴いている音楽でも、良いところを拾えるようになったんです。10~20代は洋楽大好きだったのが、日本の音楽もいいじゃんと思えるようになりましたね

●大きな変化があったんですね。

生井「変化というか、本来の性質に戻ったのかもしれません。若いときって、自分の世界が侵食されるのが不安だったりして、雑多なものを取り入れるのに躊躇することがあると思うんです。だけど自分の中に軸になるものがあれば、なんでも取り入れられるようになりますこれは、料理も音楽も同じだなと思います

●“軸”、つまりルーツを一度通っているからこそできることかもしれませんね。

生井「キャッチーな曲だけどリフがゴリゴリとか、ギャップがある曲なんかも、気になっちゃいますよね。最近の音楽にも多いですけど、玄人好みの音をあえてポップな曲に入れてそれが『かっこいい』に成り得ているようなスタンス。クラシックな料理なのに、あるエッセンスが入ることで“今の料理”になるという感じと同じですね

「何ならその日のお客さんの雰囲気に合わせてDJをやりたい。でも、料理がつくれなくなるなぁ(笑)」

●先日、店に食事に行ったときに、いも欽トリオの「ハイスクールララバイ」や一風堂の「すみれSeptember Love」が流れていてビックリしました。ギリギリのセンスとも言える曲とも言えますよね。

生井「あのあたりの曲って、今聴くと、かっこよくないですか? 『ハイスクールララバイ』なんて、バックトラックはほとんどYMOですよね。最近、80年代の音楽のピコピコ感は、今かっこいい、フィットしてるなと思って、お店でも流すことがあります。うる星やつらのエンディングテーマ『星空サイクリング』を小さいころに好きだったことを思い出して、聴き直したりとかしてるんですが、リストに入れようか迷ってます(笑)」

●お店で流す音楽は、誰がどのように選んでいるのでしょうか?

生井「この店では、ほとんど僕が選んでいます。基本のプレイリストを作って、それをちょっとずつ変えていくっていう感じですね。オープン(2017年9月)したての頃は、照明を落とした中で聴いたら気持ちいいなと思う曲を選んでいたので、レディオヘッドなどのダウナー系を中心に流していました。けれども、ここ1年くらいで、80年代の音楽を聴き直したりして、突拍子もない曲を入れ始めちゃってます」

●プレイリストに変化を出そうと思ったきっかけは?

生井「やっていくなかで、どうしてもマンネリを感じてしまうんです。お客さんは毎日変わるから同じプレイリストでもいいかもしれませんが、僕らが毎日同じ音楽を聴きながら仕事するのは変化がないな、と。レストランはライブみたいなものなので、その日によって雰囲気は違うのに、曲は同じというのが嫌だったんです。本当はその日のお客さんの雰囲気で、かける曲を変更したいくらいです」

●それって、DJですよね?

生井「そうですね。静かに向き合って食べてくれるお客さんが多い時は崇高な感じの曲で、盛り上がっておしゃべりをしている時は『ハイスクールララバイ』でもいけるんじゃない?とか。だけど、リアルタイムで曲決めてたら、料理が作れなくなっちゃうから、基本のプレイリストを随時調整する形でやってます」

●その日の場の空気感を感知して、曲をセレクトしてくれるAIなんかがあるといいですね。

生井「それ、いいですね。まあ、DJに任せたりもしてみたいですね」

●音響システムにこだわりはありますか?

生井「やりたいことはいっぱいあったのですが、全部が実現できてはいないですね。最低限として設定したのは、店のどこにいても音楽があるようにしたいということ。メインダイニングだけでなく、個室にもトイレにもスピーカーを入れています。なぜなら、お店を作る段階で、料理・内装・フィロソフィー・制服と同列に音楽を置いていました。かっこいい空間で、かっこいい音楽が流れてて、しびれる感じが欲しくて」

●食空間にとって音楽は重要な要素ですよね。ニューヨークの和食店で流れる音楽があまりに残念だったので、坂本龍一さんがセットリストを作ってあげたニュースもありました。

生井「確かに、海外でかっこいいお店だと思って入ったらモトリー・クルーやボン・ジョヴィが流れていたら戸惑いますね。ボン・ジョヴィは個人的には好きだけど、もしかかってたら、『これは、一回転して格好いいということなのか?』と悩んだ挙句、いやいやいや、やっぱり違うでしょ⁈みたいな感じで(笑)」

「レストランにも音楽にも“ライブ感”と“人の息づかい”が必要だと思います」

●今日、Best3を紹介してくださいとお願いしたら、好きなアルバムをたくさん持ってきていただいてますね。

生井「そうですね、念のため、10枚くらい持ってきました。ブルースを掘り下げていってR&B、ソウルに広がっていったので、そのあたりが中心です」

●(生井シェフが最初に取り出したのがライブ盤3枚だったので)ライブ盤がお好きなんですか?

生井「好きですね。ダニー・ハサウェイの『ライブ』(1972年)、ボブ・マーリーの『ライブ!』(1975年)、アレサ・フランクリンの『アレサ・ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト』(1971年)。この3枚はよく聴きます。ダニー・ハサウェイは、夜中に部屋を暗くして聴くとハイになれます。歓声もたくさん入ってますしね」

●臨場感がいいですよね。

生井「その場にいるくらい熱量が伝わるアルバムが最高ですよね。僕、アートでもデザインでも“人が作っている”と思えるものが好きなんですよね。人の息づかいを感じたいんです。レストランもエネルギーを感じる場所なので、“ライブ感“という点では通じるところがあります。“ライブ感”と“人の息づかい”はもっとも大事な要素だと思います」

 

『Ode』店舗情報

営業時間:ランチ 12:00~13:00 /ディナー 18:30~20:30
定休日:日曜・祝日
電話番号:050-5340-6855
住所:東京都渋谷区広尾5-1-32 ST広尾2F
web:https://restaurant-ode.com/

 

インタビュー=杉浦裕
テキスト=山本蓮理

 

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